千足國物語「新参者・二海道光宗3」

光宗は疲れを癒やすまもなく、翌日には上役への挨拶のための打ち合わせを行うことになった。打ち合わせといってもその多くは進物の確認だけで、すでに準備は畿内の者たちが行っていた。

「ご出仕はひと月後ではございますが、御館様にはやらねばならぬことが多うございます。」

「挨拶回りか」

義秀は返事をすると、部下に品物を持ってこさせた。それは盆に載せられた海獺の毛皮だった。側には「主税卿様」と札が添えられている。

「こちらは主税卿様あての御品で1枚ございます。銭にして20貫」

酒樽6個と脇に控える佐清がつぶやく。光宗は舌打ちをすると、続けよと義秀を促した。

「大蔵卿様あてに馬1頭、20貫」

「大蔵卿様に馬は必要なのか」

「日頃の気持ちでございますよ。続いて兵部卿様に鷲羽1500枚で20貫」

そんな調子で10人ほど読み上げられ、光宗は200貫もの巨費を進物のみに費やすことを知った。光宗は頭の中で酒樽60個とはじき出した。

「1人20貫とは、多くはないか。」

「なんのなんの、二海道なればこれぐらいは易きことにございます。それに、」

義秀は言いづらそうにした。光宗は構わぬといって、先を促した。

「ご先代様が、関係各所への気配りを怠りましたゆえ、そのつけでございます。」

今まで真面目に武芸と学問に励んできた光宗は、何をするにも銭ばかりの畿内に辟易としていた。

「御館様、気落ちなされまするな。このようなことなど世の習いでございます。それに賄賂、いや進物なくして政は進みませぬ。」

なぜ、と光宗は尋ねた。その声にあまり覇気がなかった。

「二海道を始め多くの諸侯は天子様に冊封を受け、本領安堵してもらうのと引き換えに我らは官人として奉仕する義務を背負っております。ゆえに天子様の下に主税卿や主計卿、大蔵卿といった官職がございますが、それらは各家が担っております。したがって各家同士の揉め事が宮中に持ち込まれたり、職権、利権がぶつかり合うこともあり、自領に有利な法律を通すことができないのでございます。それを通すためには、手練手管を尽くす必要があるのでございます。」

「・・・・・・」

「もちろん、そのような汚らわしいことは全て我々にお任せくだされませ。御館様はただ、伺候伯への道をお進みくださいませ」

もはや光宗には言葉が見つからなかった。佐清は見るに見かねて倉林に反論した。

「倉林様、まだ御館様はまだ18でございます。さような所・・・・・・」

「控えよ佐清。畏くも天子様の住まう宮中を、さような所と申すは何事か。その方、御館様に悪影響をもたらすようであれば、いつでも本貫に送り返すぞ。それでも良いか」

好々爺だった義秀の豹変ぶりに、佐清が縮こまった。すかさず義基が取りなした。

「失礼をいたしました、倉林様。この馬鹿はいささか猪突猛進するところがありまして、今後、気をつけます。」

義秀は、義基の態度にうなずいた。

「御館様に申し上げますが、およそ諸侯の家に長子として生まれたものは、宮中において天子様に奉仕し、自領のために尽くすのが習いにございます。自領のために尽くすというのは、家だけでなく領民たちの幸福のためでございます。佐清は御館様をまだ18と申しましたが、もう18でございます。元服も過ぎました。貴方様は、子供ではないのですよ」

「しかと、心得た。」

こうして、二海道伯の長男・光宗の都生活の第1日目が終わった。

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