畠山重忠物語 第1回「畠山の次男坊」

商いとは、秋に収穫物を各々が交換し合うことから「あきない」と言い、のちに「商」の字を当てるようになった。

現在の埼玉県西部あたりを支配する畠山の領内でも、そんな秋が来ていた。

畠山では、京都に送られる年貢の余剰を手に入れようとする人々と、彼らに飲食・物品を売ろうとする人々で賑わっていた。畠山の領内は菅谷・大蔵といった鎌倉街道上の宿場町や荒川・都幾川といった河川の上流に位置し、武蔵国中から多くの物品が集まる。領内の秩父から送られる秩父鹿毛という丈夫で俊敏な馬や山のように積み上げられた絹、皮革製品、豆からできた調味料、建物や造船に使われる材木、荒川の砂鉄や餅鉄で作られた釘や鋤、刀などの鉄製といった付加価値の高い商品を多く生産するため、水田が少ないこの地でも余りあるほどの米が集まり、また使い切れぬほどの砂金が集まった。

そんな人々の群れを縫うように市場を歩き回る、水干姿の少年がいた。鷹のごとく目当ての物を手に入れようとする人々をよそに彼は、勝手気ままに市場に住まう在家の者たちの店を巡っていた。

少年が着いたのは徳次の店だった。近くの荒川で獲れたふなやあゆ、うなぎなどを生簀や干物にして売っている。スーパーもなく、牛・豚肉を食べることを忌避されていた時代、魚は鳥や鹿と並んだ貴重なタンパク源だった。

「はんじょうしておるか、徳次」

「はい、万事お父上のお陰でございます。この畠山が豊かなお陰で手前どもは生活に困りません。」

徳次はこの少年に対してへりくだった対応をした。ただの子供ならそんな口を利かない。彼は、桓武天皇を祖に持つ秩父平氏嫡流畠山重能の次男・氏王丸だった。

「氏王丸様、なにかお好きなものを差し上げましょう。うなぎなんぞどうです。塩焼きにすると美味しいですよ。」

氏王丸は一瞬、物欲しそうな顔を覗かせたが、それを引っ込めた。

「いや、今は支払う米も何もない。また今度にしよう」

「そう言わず持っていって下されませ」

「ありがたいが断る。そなたが命がけで獲った魚であろうが。ただでもらうのは罰が当たる」

徳次は氏王丸のその姿に、目に光るものを浮かべた。

「それではまた今度にいたしましょう。お気をつけて」

徳次は心からの笑顔で、彼を見送った。

「しっかりした子だよ、あの子は。」

といつの間にかに後ろにいた女房が言う。

「これっ、あの子じゃないだろう。氏王丸様だろう。」

「いいじゃないか、心の中で大事に思っていれば呼び方なんてなんでもいいんだよ。それにしもてお前さん」

「なんだ」

「わたしらの子供が生きていたらちょうど氏王丸様と同い年じゃないか」

「・・・・・・だとしても一緒には遊べないさ。身分が違いすぎる。」

2人はふと気がつくと、氏王丸の姿はもう見えなくなっていた。ちょうど干物を買いに来た客が来て店はまた忙しくなり、頭の中は商売でいっぱいになっていった。

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