畠山重忠物語 第2回「 君が愛せし綾藺笠 」

市場に2人の武者が使いの者から報告を受けていた。片方はくたくたの直垂姿で白髪が見え始めており、もう片方は立派な若武者であったが、直垂姿が馴染んでおらずまだ幼さが抜けていない。

「氏王丸様は魚屋の徳次の店を訪れたあと、木地師や紺屋、革細工の店、組紐屋などを訪れ各店の主とご歓談されておりました。」

「何か物はもらったか。」

「いえ、米を持っていないからと断ったそうです。」

「氏王丸様がか」

「そのようで」

「父上の教育の賜物ですな。」

と若武者は老武者に向かって笑顔でいう。老武者は若武者にげんこつを食らわせた。

「たわけっ、そもそもそちが氏王丸様から目を離さなければこういうことにはならなんだのだ。どこぞの坊主の稚児にでもなったらどうするのだ。」

「しかし父上、そこの鳥丸のように畠山の手の者は武蔵どころか坂東中におりますから、何も心配することもないのでは」

「成清、そちは物を知らぬ。畠山とて盤石ではない。京の情勢如何で畠山は土地を失うこともあるのだ。今から10年前・・・・・・」

老武者が説教している時、人混みの中から大きな声で歌を唄う者がいた。まだ声変わりのしていない、2人も聞き覚えのある声だった。

〽君が愛せし綾藺笠

 落ちにけり落ちにけり

 鴨川に川中に 

 それを求むと尋ぬとせしほどに

 明けにけり明けにけり

 さらさら清けの秋の夜は

氏王丸だった。老武者と若武者は赤面した。

「若君」

「お、じいに成清ではないか。探したぞ」

2人は見合わせた。最初に口を開いたのは、老武者の方だった。彼は腰を下ろして視線を氏王丸に合わせた。

「それはそれはご無礼をいたしました。ところでそのお歌はどこで」

「向こうで若い娘が歌っていた。鴨川というのは京の川のことであろう。父上にお聞かせするのだ」

「若い娘ですか、どちらに」

「成清っ。それはようございましたな。しかし他のお歌の方がよろしいかと」

「そうか。父上はもうすぐ戻られるのか」

「ええ、皆お迎えの準備をしております。」

さ、こちらへと老武者は幼君を連れて急いでその場を立ち去った。往来で遊女の歌を大声で唄われたら、百戦錬磨の武者とて隠れたくもなるものだ

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