畠山重忠物語 第3回「武士の役目」

ハハハ、と氏王丸の父・畠山重能とその兄・重光は笑いあった。京より戻ってきて早々、最初の仕事は氏王丸を叱ることだった。しかし、迷子のはずの氏王丸が乳人らを探していたといい、大声で遊女の今様を謡っていたといい、それを目を吊り上げながら起こっている三浦の方といい、とうとう2人は笑い出した。

「笑い事ではございませんよ、御館。氏王丸に大事があった時、責を負うのは成房と成清ですよ。無事に見つかったら見つかったで商人と軽々しく口を利いたり、あろうことか往来で・・・・・・遊女の今様を大声でなどと、わらわは畠山を歩けませぬ。」

三浦の方は夫に訴えていると「母上様」と氏王丸が呼びかけ、「なんです」と厳しい口調で返した。

「私が迷子になって皆に迷惑をかけたことは、申し訳ないと思っております。」

三浦の方はうなずく。

「されど、商人と親しうしたり今様を謡うことはなぜならぬのですか。」

「まだわからぬのですか、己の身分をわきまえなさい。時と場所を考えなさい。と何度も申しておるのです。」

されど、と氏王丸は食い下がった。

「京の都では院の御前で白拍子が舞や今様を披露したり、平相国様は本朝の商人どころか唐土の商人と親しゅうしておるではありませぬか。時と場所を考えるのはよくわかりましたが、己の身分で付き合う相手を選ばなければならないというのはよくわかりませぬ。」

三浦の方は大きく息を吐いた。重光は慌てた。母が本気で怒っていると感じたからだ。

「この際だから申しますけれど、ここは京の都ではありません。武蔵国、畠山です。都は都、鄙は鄙、分をわきまえなさい」

氏王丸は納得のいかなそうな顔を浮かべた。すると今まで黙っていた重能が口を開いた。

「氏王丸の言い分もわからぬではない。」

その言葉に氏王丸は、パッと目を輝かせた。

「商人と親しうすることは悪いことではない。彼の者らは、物を東から西、北から南へと動かす。彼の者らなくして、この畠山では米も食えぬ。」

また、と彼は続けた。

「今様が謡えれば、折りに触れ都の方々を喜ばせることができよう。されど、行き過ぎは良くない。我らは芸人ではないのだ。武士だ。我らの役目は、民を安んじ民を豊かにすることだ。商人と親しゅうするのも、民を豊かにするため。京の都の方々を喜ばせるのは、土地を守るためにつながるからだ。」

「今様がですか」

「そうだ。我らのような在庁官人は音曲もできねば、土地を守ることができぬ。」

「何ゆえでございますか」

これには重能も返答に窮した。一時考えたのち、「そちには毒だ。まだ早い」と答えた。不満そうな氏王丸がなおも問い詰めようとするのを制したのは、重光だった。

「父上、あれを2人にお見せしたらいかがでございますか」

「ん」

「宋の者から砂金10両で交換したあれですよ。」

ああそうかといって、直垂の懐をまさぐると1枚の紙片を取り出した。

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