畠山重忠物語 第4回「紙の銭」

重能は紙片を見せる前に、別のものを氏王丸に見せた。

「この丸いものは何だと思う。銅でできておる。」

「銭でございます。」

氏王丸は即座に答えた。以前にも見せてもらったからだ。銭には「建炎通宝」と刻まれていた。重能は満足そうにうなずくと、次に先程の紙片を見せて問う。氏王丸は少し考えて答えた。

「寺社の護符でございますか。」

その答えに重能と重光は顔を見合わせ、笑った。

「そちはどう思う」

今度は三浦の方にも重能は問う。

「護符でございましょう」

やはりそう思うか、と重能はつぶやく。重光は父に代わって、紙片の説明をした。

「母上、氏王、これは紙の銭でござる。」

「京では紙も銭になるのですか」

氏王丸は大声を出した。畠山の地では米や布、変わったものでは釘や干物でいろいろな物品と取引することができたが、紙切れ1枚で取引できるとは聞いたことがなかった。

「さすがに京では使われておらぬ。これは会子とか交子とか申しての唐土で使われておるのだ。銭が幾千枚と必要な時に使う。これ1枚で1000枚分だ」

男たちは目を輝かせながら話を聞いていたが、三浦の方は違った。

「そんな紙切れに砂金10両もお使いになったのでございますか。なんてことを」

「別にこれだけに砂金を費やしたわけではない。唐物を求めたついでに手に入れたのだ。それにこれを唐人に渡せば額面通りの何かしらになるはずだ。そちにも、綿布だの伽羅だのやろう。」

なにか言いかけようとする三浦の方の機先を制して、重能はさらに続けた。

「相国様は、京においてこれまでの物と物との取引ではなく物と銭との取引に改めさせようとされておる。それに合わせて平家の家人としては、先々に備えて唐土の事情も知っておかねばならぬ。ゆえに会子を手に入れたのだ。さらに、ここで我が秩父が出てくる。」

氏王丸が分からなそうにしていると、重光が助け舟を出した。

「氏王、聖武天皇の御代に秩父では和銅が採れたであろう」

「しかし、今は枯れております。我が領内では、鉄の銭しか造れませぬ。」

「それがそうでもない。唐人たちの術を用いれば、砂鉄から鋼を得るがごとく銅を得ることができるやもしれぬ。」

「真でございますか」

「真なれば良いがの。今、存じ寄りの唐土の商人と渡りをつけておる。さすれば、我が畠山は東国で銭造りの先陣を切ることになろう。夢で終わってほしくないものだ。」

「左様、秩父武綱公以来の先陣ですな。その時は白旗を掲げましょうぞ」

「白旗は良くない、赤旗でのうては。」

重光が調子を合わせると、すぐさま重能が返した。そこにいた家人を含めた大人たちは皆笑った。氏王丸にはよく意味がわからなかったが、とりあえず笑うことにした。

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